この記事は2016年07月30日に「こまき無答塾」に書かれた記事「日本国憲法を一緒に勉強しませんか(その3)」を Internet Archive から復元→アーカイブ化したものです(アーカイブ方針


2005年2月2日より中日新聞・東京新聞に掲載された「逐次点検日本国憲法」を編集し、2005年7月に刊行された3冊の小冊子を教科書に、皆さんと一緒に日本国憲法を勉強し、私と皆さんが、今後予測される憲法改正議論を見つめる時の参考になればと思っています。
※なお、中日新聞社には、分かりやすい小冊子を引用させていただくことを許していただきたく、お願い申し上げます

 本日は、7月16日の「その1:前文」、7月17日の「その2:第9章改正」に続き、「第一章第1条~8条の天皇」について勉強しましょう。


★日本国憲法第一章 天皇

第一条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。

第二条 皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。

第三条 天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。

第四条 天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。
2 天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。

第五条 皇室典範の定めるところにより、摂政を置くときは、摂政は、天皇の名でその国事に関する行為を行ふ。この場合には、前条第一項の規定を準用する。

第六条 天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する。
2 天皇は、内閣の指名に基いて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。

第七条 天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
二 国会を召集すること。
三 衆議院を解散すること。
四 国会議員の総選挙の施行を公示すること。
五 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。
六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
七 栄典を授与すること。
八 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
九 外国の大使及び公使を接受すること。
十 儀式を行ふこと。

第八条 皇室に財産を譲り渡し、又は皇室が、財産を譲り受け、若しくは賜与することは、国会の議決に基かなければならない。


中日新聞発行の小冊子解説(抜粋)より
〇第一条
旧憲法では、天皇を「統帥権の総攬者」と規定し、天皇には絶大な権限が与えられてきた。だが、現行憲法は、天皇を「象徴」と表現し、国政に関する権限を持たず、国事行為のみを行う存在とした。
第二次世界大戦後、米国などの連合軍では天皇制廃止を求める意見が強かった。しかし、日本の国内世論は天皇制擁護論が圧倒的で、総司令官マッカーサー元帥は天皇制廃止は占領政策に不利と判断。天皇の強大な権力をなくしたうえで、天皇制を存続させた。


〇第二条
最近(※中日新聞・東京新聞に、「逐次点検日本国憲法」が掲載された当時)、にわかに注目を集めている「女帝」容認論。皇位継承について書いてある第二条は、この問題に直結する。

皇室典範第一条では、「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する」と規定している。女性天皇を認めるには、この条文を改正しなければならない。

〇第三条
天皇が行う「国事に関する行為」をめぐっては、内閣が決定することを定めているのが三条だ。天皇の行為を、議会制民主主義に基づく内閣の判断に委ねることで、天皇の行う「国事行為」が国民の意思に沿うものになるよう規定している。
間接的に、天皇も国民主権の下に置かれることを示したもので、一条で「国民の総意に基づく」と定めた天皇の地位を、内閣との関係で保障したといえる。
 

〇第四条
天皇の国事行為は具体的に、六、七条に列挙されている。ここでは、旧憲法下で天皇の統帥権を盾に軍部が独走した戦前の教訓から、天皇のあらゆる行動が国政に対して影響を与えることないよう規定し、天皇の政治影響力を排除した。天皇は国事行為以外に、私的な行動も当然行う。こちらも国政に影響を与えることはあってはならないとされている。

ただ、実際のところ天皇は、外国公式訪問や国内の公式巡幸、国会開会式での「おことば」だど、国事行為ではなく私的行為とも言えないことを少なからず行っている。これらは「公的行為」と呼ばれていて、国事行為と同じように内閣がその責任を負うが、憲法上の規定はない。

〇第五条
どのような場合に摂政が置かれるかなどについては、皇室典範の十六~二一条で規定している。それによると、摂政が置かれるのは、天皇が成年(十八歳)に達しない時か、心身の疾患や重大な事故で自ら国事行為を行うことができず、皇室会議で摂政を置くことを決めた時。摂政になれるのは(1)皇太子、皇太孫(2)親王・王(3)皇后(4)皇太后 など、成年の皇族とされている。

〇第六条
首相や最高裁判所長官の任命というと、とても大きな権限を持っているように感じるが、国民主権をうたっている今の憲法では、天皇はあくまで象徴的な存在。それぞれ国会、内閣の指名に基づいて行うと規定されているため、天皇が独断で任命することはできなくなっている。

〇第七条
七条も、六条に続いて天皇の国事行為を具体的に書いている。いずれも三条で定めているように、「内閣の助言と承認」に基づいて行われる。
この中で、常に議論されてきたのが三番目の衆院解散。天皇の国事行為だが、内閣の助言と承認が前提になるため、事実上は首相に「解散権」があるとされている。事実、多くの歴代首相が、自身の政権にとって、有利な時期を選択して「七条解散」を断行してきた。
しかし憲法には。六九条に衆院で不信任案決議案が可決された場合の解散の規定があるだけで、首相に解散権を明文規定はない。


〇第八条
皇室は戦前まで、膨大な財産を持っていたが、今は憲法の八八条で、すべての皇室財産は、国に属することが決まっている。この八条ではさらに、皇室の財産の授受を国会のコントロールの下に置いた。
ただ、すべての財産移動に議決が必要なわけではない。皇室経済法では、私的経済行為、外国との交際のための儀礼上の贈答など、少額の財産授受は議決を不要としている。このため、実際に議決が行われることは、そう多くない。


(お断り)
 「日本国憲法を一緒に勉強しませんか」のシリーズにはコメントを受け付けておりませんので、ご了解ください。